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東京高等裁判所 平成7年(ネ)410号 判決

控訴人・附帯被控訴人(以下「控訴人」という。)

日本火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役

廣瀬淸

右訴訟代理人弁護士

溝呂木商太郎

被控訴人・附帯控訴人(以下「被控訴人」という。)

オリックス・レンタカー株式会社

右代表者代表取締役

齋藤進

右訴訟代理人弁護士

加茂隆康

主文

一  本件控訴に基づき、原判決中控訴人の敗訴部分を取り消す。

二  右部分につき、被控訴人の請求を棄却する。

三  本件附帯控訴を棄却する。

四  訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

主文同旨。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  附帯控訴として

(一) 原判決中被控訴人の敗訴部分を取り消す。

(二) 控訴人は、被控訴人に対し、一四五九万七七〇〇円及びこれに対する平成五年四月一三日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一・二審とも控訴人の負担とする。

4  2(二)につき仮執行の宣言。

第二  当事者の主張

原判決事実摘示のとおりである(ただし、原判決四枚目表七行目及び同五枚目表末行の各「並びに」を「、かつ、」に改める。)から、これを引用する。

第三  証拠関係

本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1ないし4について

請求原因1ないし4についての判断は、原判決理由一に説示のとおりである(原判決一一枚目裏二行目の「内払いの制度」を「内払制度に基づく内払金の支払」に改める。)から、これを引用する。

二  抗弁及び再抗弁について

1  証拠(甲一の1、2、一八の1、2、一九、二〇、二五、乙八、九、一三、一四)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一)  日信システム開発株式会社の同期入社の社員である山口、河野及び内田(以下「三名」という。)は、他の女性一名の同期入社の社員を加えた四名で、平成二年九月三日から同月八日まで、釧路から函館に至るまでの北海道旅行の計画を立てたが、他の女性社員一名の都合が悪くなったため、三名で計画を実行することとなった(以下「本件旅行」という。)。

(二)  本件旅行は、株式会社日本旅行(以下「日本旅行」という。)主催の「マイチャート」という商品の中から選択され、オプショナルメニューとして、右の期間、釧路から函館までレンタカーを利用した観光を目的とするものであり、旅行費用は各自が分担し、ガソリン代は割り勘で支払うとの約束であった。日本旅行へのレンタカーの予約申込みは、内田及び山口が忙しかったので、河野が同年八月二日に行った(なお、本件全証拠によっても、本来右予約申込みを内田又は山口が行うことになっていたところ、右両名の都合がつかなかったので、河野が右両名に代わって右予約申込みをしたものと認めるに足りる証拠はない。したがって、河野は、内田及び山口の都合がつかなかったので、旅行参加者の一員として役割を分担したものであると推認される。)

(三)  三名は、当初の予定通り、同年九月三日に被控訴人の釧路駅前店で被控訴人から契約車を借り受けた。その際、被控訴人との間でレンタカー契約書(甲二五)が作成されたが、山口は、運転者欄に「山口育大」と記載された右契約書の「借受人ご署名」欄に署名した(右の事実及び甲二五によれば、契約書作成の際、山口が運転は自分がする旨を伝え、被控訴人の従業員によって契約書の運転者欄に前記のとおり記載され、その後に山口が署名したものと推認される。)。

(四)  三名は、行動予定を三名の合議で決定し、移動手段として契約車を利用したが、同年九月七日に本件事故に遭遇するまでの間、内田が一人でこれを運転していた。

(五)  内田は、通勤の際や休日にも自動車を利用していたため、自動車の運転には慣れていたが、河野は、自動車を持っておらず、たまに必要な時に小金井市の実家に住む母親の自動車を借りて運転する程度で、日常余り運転はしていなかった。

2 以上のとおり、三名は、本件旅行について共同して計画を立て、レンタカーを利用して道内を移動して観光することにしていたこと、河野がレンタカー利用の予約申込みを行ったが、実際に被控訴人との間でレンタカーの賃貸借契約を締結したのは山口であること、山口は右契約時には運転者が自分であると申告したが、実際には、本件事故に遭遇するまでの間は内田が一人で運転していたこと、本件旅行の費用は各自が分担し、ガソリン代については割り勘で支払う約束であったことなどの事情からすると、契約車は、本件事故当時、契約書に記載された借受名義人の如何にかかわらず、三名が共同して被控訴人から賃借し、三名の共同の目的である本件旅行の用に供していたものと推認するのが相当である。この点において、山口及び河野は、単なる同乗者あるいはレンタカーを使用してする旅行に連れていって貰った者とは立場が異なるというべきである。したがって、本件事故当時の契約車の運転行為は、現実の運転者が誰であるかにかかわらず、いわば三名の一体としての運転行為であり、本件事故当時、三名は契約車について運行供用者の地位にあったものということができる。一方、被控訴人は、レンタカー業者として有償でその所有する契約車を貸し出したものであり、本件事故当時においても、運行供用者の地位にあったものと解される。

そこで、本件事故当時契約車を運転していた内田を除く山口及び河野が被控訴人に対する関係で自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条にいう他人であることを主張することが許されるか否かについて検討すると、被控訴人は、契約車の所有者であるが、本件事故当時これを三名に賃貸してその使用に委ねていたのであり、三名は、本件事故当時、被控訴人から契約車を賃借して、現に三名の共同の目的である本件旅行の用に供していたのであるから、借受名義人や現実に運転した者が誰であるかにかかわらず、本件事故当時の契約車の具体的運行に対する支配の程度態様は、山口及び河野のそれが直接的、顕在的、具体的であるのに対し、被控訴人のそれはより間接的、潜在的、抽象的であるから、山口及び河野は、被控訴人に対し自賠法三条にいう他人であることを主張することは許されないというべきである。右の判断に当たり、山口及び河野が契約車を運転していた内田に対し、現実に運転の交替を促したり、運転につき一定の指示を与えたりすることのできる立場にあったか否かは、内田に対する関係で他人であることを主張することができるか否かが問題になっている場合には重要な要素となるが、本件におけるように、被控訴人との関係において他人性が問題になっている場合には、右のような内部的な事情は重要ではないというべきである。

なお、運行供用者とは、本来その運行により人の生命又は身体が害された場合に、その被害の賠償の責めに任ずる地位に立つ者をいうのであるから、共同運行供用者のうちの一部の者が被害者となった場合において、その者が他人から損害賠償を請求されていないときは、その者について、そもそも運行供用者性を問題にする余地はなく、その他人性を云々しこれを否定するのは誤りであるとの見解がある。これによれば、山口及び河野は、被控訴人に対し自賠法三条による責任を追及することが可能になることが考えられる。しかしながら、被害者となった共同運行供用者と運行供用者として損害賠償を請求された者との間における当該車両に対する運行支配の程度態様は様々であり、他の被害者となった者(非運行供用者)に対する関係では、共同運行供用者の一人として、最終的には各負担割合に応じて損害賠償責任を負担しなければならないのに、自らが被害者となった場合には、他の共同運行供用者に対して一律に全責任を追及することができるというのは、その結果の妥当性に問題があり、右の見解を採用することはできない。

三  以上のとおりであるから、被控訴人の請求は、その余の点について判断するまでもなく、すべて理由がない。

よって、原判決中控訴人の敗訴部分は相当でないから、本件控訴に基づき、これを取り消した上、右部分につき被控訴人の請求を棄却し、原判決中被控訴人の敗訴部分は相当であり本件附帯控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 清水湛 裁判官 瀬戸正義 裁判官 西口元)

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